妖精ラベンダーヒスイ
〈表面〉
〈裏面〉
〈底面〉
採集日 2022年9月中旬
採集場所 須沢海岸
質量 112g
この日は、天気も悪くなく、波もそこそこといった日でした。朝イチの海岸には、すでに釣り人やヒスイ拾いをする人たちが居りました。海中の石ころをじっくりと見ながら探し歩いていたところ、私がウェーダー姿のせいか、観光客らしき一人の男性に「これはヒスイ?」と頻繁に尋ねられました。ヒスイではないと答えると、「早くヒスイを採ってよ。」とお願いされました。私としても、何とか参考になりそうなヒスイをお見せしたかったのですが、そう簡単には採れませんので、その方が持ってくる度に、素人なりに判別をしてお別れしました。その後、仕切り直して海岸の端までのんびりとヒスイを探し始めました。すると、足の爪先くらいの深さの波打ち際の砂の上に、青白く光る大きめの石ころがポツンと落ちているのが目に止まりました。青ヒスイかなと思い、ワクワクしながらその石をヒスイ棒で掬い上げてみますと、想定外の美しいラベンダーヒスイで、ドキドキが止まらなかったことを覚えています。
この日はこれ以上のヒスイは採れないと思い、早々にヒスイ拾いを切り上げたことは言うまでもありません。
このヒスイの特徴は、何といっても、石質の透明感と濃いラベンダー色です(白く見える部分も、白ヒスイと比較してみるとラベンダー色ですので、石全体がラベンダー色のようです)。いわゆる「妖精ラベンダー」と呼ばれるヒスイと言って良いかと思います。サイズも良く、形もヒスイらしいカクカクとした感じで悪くありません。透過も幻想的です。
先行者もいましたので、たまたま私が通ったタイミングで、覆い被さっていた砂が捌けて見つけられたのでしょう。あの観光客の男性がいなければ、このヒスイに出会うことはなかったかもしれませんね。
ヒスイ拾い考 その四
1-2 ヒスイの拾える場所について
ヒスイは、富山県朝日町の宮崎海岸から新潟県糸魚川市の大和川海岸にかけて拾えるとされています。それでは、どの海岸でヒスイ拾いを楽しむのが良いのでしょうか。拾い易い海岸というのはあるでしょうか。どの海岸でヒスイ拾いを楽しむべきかについての判断要素を以下にまとめます。
⑴ どんなヒスイを拾いたいか
ヒスイの供給源は、姫川と青海川とされています。通常、山から川に流れた岩石は、川から海へと流れ、水流に揉まれるに従い、割れて細かく、磨かれて丸くなり、最後には砂粒になります。したがって、姫川や青海川に近い海岸であればあるほど、大きなサイズのヒスイと出会う確率が高くなり、遠ければ遠いほど、小さなサイズのヒスイと出会う確率が高くなります。他方、これらの川に近い海岸ほど、より岩石らしい、ゴツゴツとした荒々しいヒスイとなり、遠い海岸ほど、いわゆる「海石」と呼ばれる、自然の手によって磨かれた美しいヒスイとなります。糸魚川翡翠の価値は、ミャンマー産の翡翠とは異なり、この「海石」としての美しさにあるとも言われていますので、悩ましいところですね。
⑵アクセス、設備
観光のついでなど、気軽にヒスイ拾いを楽しみたい場合には、アクセスの良さや、トイレや食事施設等のある海岸が良いでしょう。「ヒスイ海岸」と呼ばれる、宮崎海岸や押上海岸は、駅が近く、周辺に施設もありますので、車がない方にはお薦めです。須沢海岸や親不知ピアパーク、市振海岸には駐車場やトイレがあるため、車がある方の場合には選択肢に入ってきそうです。
⑶海岸の状態
海岸が砂浜になっているなど、その日の状況次第では、別の海岸に変えた方が良いこともあります(他の海岸も砂浜かも知れませんので、海岸を変えたからといってヒスイを拾える保証はありませんが…)。
⑷ヒスイ拾いの穴場?
そもそも、ヒスイは他の石に比べて絶対量が少ないので、「穴場」と呼べる海岸はないと思っています。逆にいえば、どの海岸であっても、タイミングさえ良ければヒスイを拾うことができます。どこの海岸を選ぶかよりも、一つの海岸の中で、どのポイントがヒスイを拾う確率が高そうかを考えた方が効率が良いですし、ヒスイ拾いをより深く楽しめるかと思います。そのためには、何度も同じ海岸を歩いて回ることが重要です。その内、潮の満ち引きや流れといった、その海岸の特徴、ひいては自然の奥深さ、ダイナミズムが肌感覚で分かるようになります。
2-2 ヒスイ拾いのルールについて
フォッサマグナミュージアムが、持続的なヒスイ拾いの観点から、「翡翠の3ない運動」を提唱されていることは、以前述べたとおりですが、この点につき、若干の補足をしたいと思います。
同ミュージアムでは、石の鑑定サービスが行われておりますが、特に、ヒスイを保護するために、以下のリンクのとおり、2018年4月1日から、手のひらサイズ(長さ15cm以上)を超える石の鑑定を行わないと変更された経緯があります。
石の鑑定サービスの変更について(2018年4月1日から) | 新潟県糸魚川の観光案内
岩石は自然に砕けて個数が変わりますので、「翡翠の3ない運動」の内、個数で制限をかけるのではなく、「大きさ」で制限をかけたということでしょう。フォッサマグナミュージアムは糸魚川市が設置管理する施設になりますので、今後、これが市の公式な見解となる可能性も十分にあるのではないかと考えています。
いずれにせよ、このような経緯を踏まえますと、手のひらサイズを超えるヒスイを拾うことは控えた方が良さそうですが、私を含め、いざ、手のひらサイズを超えるような質の良いヒスイを目の前にしてこれを拾わない自信は正直ありません。人間の良心にのみ委ねるのは限界がありますし、将来にわたってヒスイ拾いが出来なくなってしまうのは何とも寂しい限りですので、個人的には、より詳細なルール作りはあっても良いのではないかと思っています。
4-2 ヒスイについて
ヒスイの定義について、補足したいと思います。鉱物界で著名な松原聰先生著の「翡翠がわかる本(第2版) 小滝物産店発行」によりますと、岩石学上、「翡翠輝石の量が50%を超える岩石」を「翡翠輝石岩」と呼び、「ヒスイ輝石とオンファス輝石、それぞれあるいはその両者をあわせて90%以上含まれる岩石」を「翡翠」と定義されています(同著4頁)。(ちなみに、本書はヒスイの鉱物学的な知見が詳しく記載されていますので、より詳しく知りたい方はご購入をお薦めします。)
勿論、肉眼でヒスイの含有量を判別することは困難ですが、ある程度ヒスイ拾いの経験を積んだ今では、何となく質の良し悪しが分かるようになります。例えば、手持ちのヒスイを私の感覚で判別してみますと…
こちらのヒスイは、翡翠輝石岩(50%以上)とはいえそうだけど、「翡翠」とはいえないレベル。
こちらのヒスイは、良い感じだけれども、「翡翠」とまではいえないかな〜くらいのレベル。
こちらのヒスイは、「翡翠」といって良いんじゃない?くらいのレベル。
こちらのヒスイは、「翡翠」と断言できるレベル。
以上は、あくまでも私の感覚ですが、大きく外れてはいないんじゃないかとも思っております。
石英のようなヒスイ
〈表面〉
〈裏面〉
採集日 2022年8月中旬
採集場所 須沢海岸
質量 28.5g
この日は、夏の曇りの日でしたか、石は出ていましたが、波打ち際の奥を見ることは難しいといったコンディションだったように思います。
朝からヒスイを探して波打ち際を歩き彷徨いましたが、中々ヒスイは見つかりません。そうしたところ、後ろから来たヒスイハンターさんに追い抜かれた直後、その方が通った所にこのヒスイが落ちていました。
このヒスイの特徴は、何といっても、石英のような透明感でしょう。フォッサマグナミュージアムの肉眼鑑定サービスにおいても、開口一番、「これは石英」と言われたくらい、石英に良く似ています(勿論、直ぐにヒスイと訂正されました)。
黒い箇所は、細長いキラキラした結晶が集合しており、典型的な角閃石だと思います。
緑の色彩は薄めですが、質の面ではキラリとひかる素敵なヒスイです。
野菜のようなヒスイ
〈表面〉
〈裏面〉
採集日 2022年7月上旬
採集場所 須沢海岸
質量 36.5g
世間では安倍元総理が銃撃され、慌しい中でしたが、私は、気分転換を兼ねて、朝一からヒスイを探しに出掛けました。
天気も良く、波も穏やかでしたが、連日の凪ぎからか、海岸に人はあまり居ませんでした。のんびりと波打ち際を歩いていますと、波間に揺ら揺らと、このヒスイが揺れていました。
眩く輝くその姿から、一目でヒスイと分かりました。
このヒスイの特徴は、白ヒスイと緑ヒスイの境界が明確な点です。フォッサマグナミュージアムの学芸員さんに聞いてみたところ、緑の部分は質の良いヒスイであり、それぞれが明確に分かれているのは、二度に亘り、ヒスイが生成されたのではないかとのことでした。
その色彩と形から、白菜のような野菜を連想させます。そういえば、台湾の故宮博物院に所蔵される白菜翡翠(翠玉白菜)も、元々のヒスイの色合いを利用して造られたそうですから、よくある現象なのかも知れませんね。
金山谷のヒスイ
〈表面〉
〈裏面〉
〈底面〉
採集日 2022年5月下旬
採集場所 須沢海岸
質量 295.5g
この日は、気温も暖かく、穏やかな日曜日でした。予報では、朝方は波が穏やかでしたが、徐々に波が強くなるとのことでしたので、午前中で切り上げて帰る予定でヒスイ拾いに行きました。
海の中に膝くらいまで浸かりながら、釣り人の合間を縫って、のんびりと探しましたが、大してヒスイは見つからず、再度、元来た途を、波打ち際に沿って、海中を見ながら足早に引き返していたときでした。徐々に白波が起ち始めた足のつま先くらいの海中に、先程は無かった、鮮やかに翠色に光る石を見つけました。見つけた時は、どうせ、“きつね石”だろうと期待せずヒスイ棒を伸ばしてみましたが、いざ、掬い上げようとした時には、心の中で、「まさかな...」「まじか...」と形容し難い思いに駆られていました。そうして、掬い上げてみますと、濃く鮮やかな翠色が入った質の良いヒスイでしたので、心臓が止まるかと思うくらい、昂揚したことを、今でも覚えています。
ヒスイ拾いを始めて、⑴質、⑵色、⑶形、⑷大きさともに、満足の行くヒスイを拾えたのは、これが初めてのことでした。
とても思い出深い一石です。
ヒスイ拾い考 補1
〈表面〉
〈裏面〉
採集日 2022年5月上旬
採集場所 須沢海岸
質量 43g
こちらのヒスイは、砂浜と化していた海岸線を歩いていたときに、打ち上がっていたところを拾いました。
一見、白と緑のヒスイに見えますが、白い部分に光を当てると、薄い青色に透過しますので、白ではなく、青色のヒスイと思われます。緑色の部分は、質感から、ヒスイではないように思われます。
ところで、こちらのヒスイには、いわゆる「海焼け」と呼ばれる錆が強くこびりついています。これを風合いとして好む意見もありますが、私は、錆を落とした方が、より綺麗になると考え、普段、水晶のクリーニングに用いているシュウ酸で錆を落とせないかと考えてみました。
勿論、ヒスイは水晶とは異なりますので、問題はないかと、インターネットで関連する記事を探してみましたが、目ぼしい記事は見当たりませんでした。残念ながら、私自身、化学の知識はぼんやりとした中学高校レベルしか持ち合わせておりません。
そこで、物は試しと、思いきってやってみることにしました。
先ず、犠牲を最小限にするために、小さめの錆びつき白ヒスイを、2時間程、シュウ酸の飽和水溶液に漬けてみたところ、思ったよりも成果を得られました。
そこで、本題のヒスイの錆落としに挑戦してみることにしました。朝仕事に出掛ける前にシュウ酸に浸し、仕事帰りに様子を伺ってみたところ、見事に錆が落ちていました。しかし、残念なことに、処理前と比べると、不自然に白くカサカサな肌質となり、明らかにヒスイ特有の透明な質感が失われてしまっていました。
〈表面〉
〈裏面〉
これは、失敗と言わざるを得ません。シュウ酸がヒスイ自体と反応したか、もしくはヒスイに含まれる別の鉱物と反応したのでしょうか、原因は分かりません。
いずれにしろ、私の結論としましては、ヒスイの「海焼け」については、これを風合いとして肯定するのが良さそうです。
カットケーキ状の薄緑ヒスイ
〈表面〉
〈裏面〉
採集日 2022年3月下旬
採集場所 須沢海岸
質量 27g
この日は、波も無く穏やかな日でした。そのため、海中の棚の辺りを中心に、じっくり、のんびりとヒスイを探していました。
そうしていますと、ふと、海中の棚の底付近に、周囲の石とは異なる鮮やかな翠色の石が目に留まりました。ヒスイ棒を伸ばして拾い上げてみますと、石の表面が質の良いヒスイ特有の光沢で輝いて見えました。
このヒスイの特徴は、カットケーキのような愛らしいフォルムと、鮮やかさと淑やかさを兼ね備えた品のある色味であると思います。
富山県のヒスイ海岸に打ち上がるよく磨かれたヒスイも魅力的ですが、ヒスイをもたらす川に近い海岸にしかみられない、程良く磨かれたヒスイも魅力的ですね。